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タックスヘイブン、軽課税国などを用いたグローバル企業による節税対策が、OECD(経済協力開発機構)加盟国やG20(20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議)構成国によってここのところ問題視されており、それに向けた対応策の策定が急ピッチで進められている。

近年名指しで批判を受けた企業としては、スターバックス、グーグル、アマゾン、アップル、マイクロソフトなど世界に名だたるグローバル企業が含まれる。

具体的には、スターバックスは、英国に進出以来14年で約3840億円もの売り上げを計上したが、法人税の支払額はわずか約11億円で、しかも、2008年以降は全く英国の法人税を支払っていなかったことがロイター通信によって昨年スクープされた。その手法は、英国のスターバックスが、いずれも軽課税国であるオランダやスイスに所在する関連会社に支払うコーヒー豆の英国への輸入の対価やロゴ(商標権)の使用料などを多額なものとすることによって英国における利益を圧縮していた、というものである。

また、グーグル、アマゾン、アップル、マイクロソフトなどは、知的財産権をやはり軽課税国であるアイルランドに移転し、ライセンスについてはオランダを経由させ、最終的な利益についてはほぼ課税がないタックスヘイブンである英領バミューダ諸島やケイマン諸島などに環流させることで、節税を行っている。ブルームバーグによれば、グーグルの海外事業に関する法人実効税率は2・4%、連結ベースの実効税率が22・2%(09年)となっている。グループ全体の実効税率はアップルが24%、マイクロソフトが18%といずれもグーグルとおおむね同水準であるとされている。米国は州によって実効税率が異なるが、アップルやグーグルが拠点を置くカリフォルニア州は米国の標準的な実効税率の例として引用されるが、実効税率は40・75%である。

ここで留意すべきは、以上のようなグローバル企業による節税は、各国の税法や租税条約に明白に反する違法なものと容易に断ずることは難しいという点である。確かに、各国の税制度や租税条約はこのような行き過ぎともいわれる節税策に使われることを想定しなかった。しかし、だからといって違法な節税ないし租税回避であるとまでは一概にいうことはできないのである。この点がグローバル企業の節税策に対抗するに際して大きな障害となっている。

このようなグローバル企業の行き過ぎた節税策に対抗するために、その対抗策の策定がすでに急ピッチで進められている。その舞台は、OECDやG20だ。そこで、このような節税策は「BEPS(Base Erosion and Profit Shifting)」と呼ばれており、和訳として「税源浸食と利益移転」という用語が用いられている。「租税回避」という用語が用いられていない点が、これらの節税策を違法と容易に認定できないことを表している。

まず、OECDが本年2月にBEPSの問題点を指摘した報告書を公表し、それを受けてG20が4月の財務相・中央銀行総裁会議(ワシントン)でこれを支持する声明が出された。さらに、7月の同会議(モスクワ)では、OECDからBEPSに関する15項目にわたる行動計画が公表され、「BEPSに対処することを目的とした野心的で包括的なOECDの行動計画を全面的に支持する」との強力なメッセージが出された。9月のG20サミット(サンクトペテルブルク)でも同様の方向性が確認された。

◇難航する合意形成
OECDにより公表された15項目の行動計画は、グローバル企業によるBEPSへの対策を主眼としたものではあるが、それ以外にも、各国の立法が追い付いていないともいい得る分野、例えば電子商取引に関する課税の問題なども含まれている。

具体的には、電子商取引における課税、各国によって取り扱いの異なる事業体等に関する課税、タックスヘイブン対策税制の強化、条約濫用の防止、国家間の情報交換の強化、問屋形態を用いたPE(恒久的施設)課税の回避、移転価格課税の強化、納税義務者に対するタックスプランニングの開示の義務化等、租税条約の改定等が定められており、これらについて個別に解決策の達成時期が設定されている。その期間は、原則として2年以内(15年9月まで)である。

この野心的プロジェクトが今後2年内に一定の成果を提示した場合、各国はそれを受けて国内法を改正したり、あるいは、租税条約の改定を行ったりすることとなる。OECDやG20で一定の成果・枠組みが示された場合、それらが十分に尊重されることは当然にしても、そこに厳密には法的拘束力はない。従って、グローバル企業によるBEPSについてぬかりなく対策を講じるためには、より多くの国がBEPS対策プロジェクトに参加することが必要であり、事実、OECDとG20は多くの国に参加を呼びかけている。

一方で、多くの国が参加すれば、それだけ合意の形成が困難となるであろう。特に新興国をかかえるG20においては、総論には賛成しても、各論には反対するといった事態も生ずるかもしれない。

新興国は、税制優遇措置をもって企業の誘致を図りたいという思惑があり、新興国から反対意見が噴出する可能性もある。各国の議会がそういった国内税法の改正を可決するのかという問題点もある。さらには、OECD加盟国の中でも、税制優遇措置による企業誘致はあり得る経済施策として捉えている国がある。事実、英国は法人税率引き下げや知的財産権に関する税制優遇措置を導入する見込みである。OECD加盟国においてでさえBEPSに断固たる対応が採れるのか、という問題点もあり得よう。

◇知的財産評価の難しさ
BEPSは前記のとおり、知的財産権をアイルランドにその開発地(多くの場合米国)から移していることがポイントの一つであるといえる。従って、BEPS対策としては知的財産権の移転の対価が適正だったのか、ということが問題となる。

知的財産権は形のあるものではないので、その移転は容易であり、知的財産権の登録制度がある国や地域であれば、そこに登録することによって移転が完了するという特性を有する。これが所得の移転を容易にしている。ただ、その移転の際には、たとえグループ企業同士の取引であっても、なにがしかの対価の支払いは必要であり、その対価を適正に定めることができれば(今後その知的財産権が巨額の利益を生むのであれば高額で譲渡しなければならない)、開発地でその時点で多額の納税が必要となる。しかし、現時点では、知的財産権の適正な評価手法について確立していない。

このような状況に対応する税制としては、利益の移転が容易なグループ企業間における取引が、独立企業間で行われたものと見なして、その価格を算定し、実際の取引価格との差額に課税する移転価格税制という制度や、米国において導入されている所得相応性基準と呼ばれる制度(知的財産権から生ずる所得の額に応じて各年の所得額を調整する税制)などがある。OECDでは、このような知的財産権の評価手法についても確立を目指すとしている。知的財産権の評価手法に関するOECDのプロジェクトは、本BEPS対策プロジェクトよりも早い時期に開始されており、12年6月6日に中間ドラフト(草案)がパブリックコメント(意見募集)に付され、それを受けて今年7月30日に改訂版ドラフトがパブリックコメントに付された。
◇従来にない影響力

これらのドラフトにおいてOECDは、知的財産権の評価については、比較可能な知的財産権同士を比べて評価する手法、知的財産権に帰属する将来所得見積もりの動向や将来キャッシュフロー(現金収支)の割引現在価値(一定の割引率を用いて将来の予想されるキャッシュフローを現在の価値に引き直したもの)の計算を前提とした評価手法を一定の条件で有用であるとしている一方で、知的財産権を開発するための費用をベースにした評価手法は、開発費用と開発後の知的財産権の価値に相関性があるとすることにはほとんど根拠がないとして一般的には推奨されない、としている。

さらには、改訂版のドラフトには取引の時点で評価が非常に不確実である知的財産権については、「今後数カ月のうちに集中的な作業が行われることが見込まれている」との記載がなされており、年末までには一定の方向性が示されるものと期待される。そして10月22日に改訂版ドラフトに対するパブリックコメントの結果が公表されたが、この知的財産権の評価手法については、やはりさまざまなコメントが提起されている。そもそも知的財産権は独自であることから知的財産権として認められるという特徴を有しており、そのような中で評価の対象となる知的財産権と比較可能な(すなわち、ある程度類似している)知的財産権を探すこと自体が難しい、という内在的な問題があることが適切な評価手法の確立を難しくしているのである。このパブリックコメントの公表を受けて、OECDでは、さらに知的財産権の評価手法の確立に向けて議論を重ねていくとしている。

従来、国際的な課税問題は、OECDといった国際的なフォーラムはあったにせよ、基本的には、2国間の租税条約で国家間の租税の配分を調整してきた。このBEPS対策プロジェクトがもし達成されれば、その影響力の大きさや新規性から国際課税の歴史の転換点ともいうべきだろう。

各国の税務行政機関が協力して、本BEPS対策プロジェクトがどのように進展していくか注目される。

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